言語的な側面を担うワーキングメモリ機能によっても運動イメージ効果は変わってしまうのか?
運動イメージとは,運動実行を伴わずに,運動を行うことを想像する一連の心的過程であるとされています.運動イメージはワーキングメモリ機能を活性化することで生まれるため,このワーキングメモリ機能が相対的に低い者の場合には,高い者と同等に運動イメージ効果を享受できるとは限りません.そこで,本学保健医療学部 理学療法学科 福本悠樹講師,東藤真理奈講師,大学院 研究科長の鈴木俊明教授は,運動イメージ効果とワーキングメモリ機能の関連性について検討を行い,その成果は国際誌Cognitive Processingに掲載されました.
-研究の概要-
これまで,視空間スケッチパッドに一時的に保持された情報に対して中央実行系がアクセスすることで,運動イメージが生成されるとされており,音韻ループもこれに関わるのかは明らかでありませんでした.この点を検証した結果,言語情報に関わる短期記憶貯蔵容量が低い群では,運動イメージ中に脊髄運動神経機能の興奮性が増大しやすく,運動技能改善も認めるが,高い者のそれと比べると劣ることが明らかとなりました.
-研究内容-
Digit Spanの逆唱から音韻ループを,Stroop testから注意機能を評価しました.その後,能力によって振り分けられた各群に対して,安静と比較した運動イメージ中での脊髄運動神経機能の興奮性を振幅F/M比から評価し、手指巧緻性はPegの点数で評価しました(図A).
結果,言語情報に関わる短期記憶貯蔵容量の低い群では,運動イメージ中に脊髄運動神経機能の興奮性増大を認めつつ手指巧緻性が向上しました。高い群では,運動イメージ中に脊髄運動神経機能の興奮性増大は認めず,手指巧緻性が(低い群よりも)向上しました.注意機能の側面では,能力の違いによる差は生じ得ませんでした(図B).
-本研究の臨床への活用-
健常若年者では,言語情報に関わる短期記憶貯蔵容量と違って,注意機能には個人差は大きくは生じ得ないとされており,注意機能が運動イメージ効果を左右しないとは言い切れません.ただし我々は,口頭指示の下で運動イメージ実行を指示し(対象者は言語情報を変換し運動想起を行う),イメージ中には発声を伴わずとも心的には発声する(subvocal)ことも多くあります.従って,運動イメージ生成の元記憶とはならないものの,運動イメージ効果(脊髄運動神経機能の興奮性変化と手指巧緻性の変化)には影響する可能性があります.臨床への活用の際には,運動イメージ効果を示しやすい者と示しにくい者をスクリーニングしておく重要性が明らかとなりました.
-論文情報-
Fukumoto Y, Fujii K, Todo M, Suzuki T. Differences in working memory function are associated with motor imagery-induced changes in spinal motor nerve excitability and subsequent motor skill changes. Cogn Process. 2024.