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運動イメージ(運動実行を伴わずに運動を行うことを想像する)は,身体に強く根差した具体化された認知であるために,若年者よりもワーキングメモリ機能が劣るとされる高齢者の場合,充分な運動イメージ効果を受けられるのかについて議論が分かれていました.そこで,本学保健医療学部 理学療法学科 福本悠樹講師,東藤真理奈講師,大学院 研究科長 鈴木俊明教授,そして脳活動の分析として,本学作業療法学科 備前宏紀講師と名古屋女子大学 医療科学部 作業療法学科 木村大介教授らが協力し,若年者と高齢者のイメージ中の脳活動と脊髄運動神経機能の興奮性変化から,運動イメージ効果の加齢変化を明らかにしようとしました.本研究成果は国際誌Neuroscienceに掲載されました.

研究の概要

運動イメージが手指の巧緻性に与える影響を,若年者と高齢者で比較し,脳活動と脊髄運動神経機能の興奮性を評価しました.運動イメージは,高齢者でも手指の巧緻性を改善させ,同じ傾向として脊髄運動神経機能の興奮性を高めることが示されました.脳の活動分析では,若年者では運動イメージ中に補足運動野の活動が増加しましたが,高齢者では変化が見られませんでした.しかし,グラフ理論に基づいたネットワーク解析では,両グループでワーキングメモリネットワークが共に形成されていました.また,構造方程式モデリングを用いた仮説モデルの検証では、補足運動野が脊髄運動神経機能の興奮性変化に関連していることが示唆されました.

研究内容

若年者群と高齢者群のワーキングメモリをDigit Span(数字の逆唱)を用いて評価し,その後安静と運動イメージ中の脳活動と脊髄運動神経機能の興奮性変化、および運動イメージ前後での手指巧緻性の変化を評価しました.

結果,高齢者群(●Elderly group)は若年者群(○Young group)よりもワーキングメモリ機能が劣っていましたが,若年者と同様に運動イメージ後には手指巧緻性が向上し(図右:Peg Score),同様の特徴として運動イメージ中には脊髄運動神経機能の興奮性が増加しました(図左:F/M amplitude ratio).運動技能変化と同様の特徴を示すという点で,脊髄運動神経機能の興奮性変化を評価することは,運動イメージの質的側面を把握するうえで有用となる可能性があります.

脳活動については,若年者群は運動イメージ中に補足運動野(SMA)の活動を認めましたが,高齢者では認めませんでした(図左上).グラフ理論に基づいたネットワーク解析では(図下段),両グループでワーキングメモリネットワークが共に形成されていましたが,高齢者ではネットワークに補足運動野(SMA)も含まれ,媒介中心性は前頭眼窩野に認めました(若年者は背外側前頭前野).前頭葉でのネットワークとしての機能や領域間の相互作用もふまえた場合,高齢者は運動イメージ中に,意思決定や行動選択において,若年者とは異なっている可能性があります.また,構造方程式モデリングを用いた仮説モデルの検証では,補足運動野(SMA)は脊髄運動神経機能の興奮性変化(F/M amplitude ratio)に関連していました(図右上).

臨床への示唆

高齢者は転倒リスクが高いため,運動実行を伴わない運動イメージ練習は有効な選択肢となり得ます.高齢者は,ワーキングメモリ機能の低下を認めますが,運動イメージによる手指巧緻性の改善を見込める可能性が示唆されました.

論文情報

Fukumoto Y, Bizen H, Todo M, Kimura D, Suzuki T. Age bias in changes in finger dexterity based on brain activation and spinal motor nerve excitability induced by motor imagery practice. Neuroscience 568: 408-418, 2025.