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例えば、「筋力が上がったのに・・・」「関節可動域が拡大したのに・・・」いまひとつ動作改善が定着しないといった悩みは臨床上多くあります。何らかの疾病により運動技能が失われた場合、その運動練習を繰り返し、適切な運動の再学習を図っていく必要があります。この”適切な運動の再学習”を、より高い効果として得ていくためには、どのような工夫がなされるべきか?理学療法学科の福本 悠樹 講師、東藤 真理奈 講師、そして研究科長の鈴木 俊明 教授らは、運動イメージ(意識的に脳内で運動を企画し、さらにその実行を心的にリハーサルする過程)を利用した運動練習の反復効果について、脊髄運動神経機能の興奮性変化と共に検討しました。本研究の実施に当たっては、公益社団法人 明治安田厚生事業団より、第38回若手研究者のための健康科学研究助成を受けました。この研究成果は国際誌Heliyon(https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2024.e30016)に掲載されています。

-研究の概要-
何らかの疾病により運動技能が失われた場合、運動練習を繰り返し、適切な運動の再学習を図っていく必要がありますが、一方で反復した運動練習効果には天井効果も存在し、一挙に得られる即時効果には制限がかかることも知られています。そこで、各運動練習後に訪れる休息時間には、直前に行った運動遂行時の記憶から誤差を考慮して、運動プログラムの修正が行われている点に着目し、ここに心的な記憶の再生とされる運動イメージを挿入することで、より高い運動練習効果を導けるのではないかと着想しました。このような手法は、過去にも検討されていましたが一定の結果は得られておらず、その原因としては神経基盤(特に脊髄運動神経機能の興奮性)の検討の不十分さに起因するとされていました。そこで、脊髄運動神経機能の興奮性変化と共に運動練習と運動イメージの併用効果を検討したところ、運動技能習熟過程では脊髄運動神経機能の興奮性増大は抑えられる必要があることが示されました。さらに運動練習と運動イメージの反復により運動技能は向上し、これは運動練習単独実施の場合よりも技能向上の度合いが大きくなることも明らかとなりました。

-研究内容-
母指と示指によるピンチ動作における力量調整課題から手指巧緻性を評価しました。介入条件では運動練習と運動イメージの組み合わせ練習を6セット反復実施し、コントロール条件では運動イメージを安静に置き換えて同様の流れを実施しました。安静と比較した各運動イメージ中の脊髄運動神経機能の興奮性変化は、振幅F/M比を用いて評価し、運動技能変化は発揮ピンチ力値と規定値ピンチ力値との調整誤差の絶対量(絶対誤差)を指標としました(図A)。
結果、運動練習と運動イメージの反復により絶対誤差が減少し、これは運動練習単独実施の場合よりも運動技能向上の度合いが大きくなることが明らかになりました。また、安静と比較した各運動イメージ中での振幅F/M比は増大を認めなかったために、運動イメージはリアルタイムな運動遂行予測に基づき脊髄運動神経機能の興奮性増大の程度に関わっていることが示唆され、運動技能習熟過程では興奮性増大の必要性がない可能性が示されました(図B)。

-本研究の臨床への活用-
獲得したい運動の反復練習を実施する際には、必ず休息期間が挟まれることとなります。運動イメージは特別な機器を必要とせず、時間や場所の影響も受けにくいため、簡便に行うことができます。そのため、単に休息期間とするのではなく、この間に運動イメージを実施させることで、即時的な運動技能改善を大きな効果として得られる可能性があります。

-論文情報-
Fukumoto, Y., Todo, M., Suzuki, M., Kimura, D., Suzuki, T. (2024) Changes in spinal motoneuron excitability during the improvement of fingertip dexterity by actual execution combined with motor imagery practice. Heliyon 10, e30016