平成30年度
平成31年2月4日(月)、平成30年度公開発表会が開催され、大学院2年生8名の研究が発表されました。それぞれの発表を紹介します。すべての研究は、関西医療大学倫理委員会の承認を得て、対象の方からの同意を得て実施されています。
「座位での一側下肢挙上動作における下肢挙上の高さの違いが身体運動・座圧中心位置に及ぼす影響」
木田 知宏
座位での一側下肢挙上動作における、下肢挙上の高さの違いによる身体運動・COP (center of pressure)変位の特徴について、健常者9名を対象として検討した。座位にて一側下肢を対象者の下腿長の30%、60%、90%の高さに挙上させ、各課題におけるCOP(左右・前後方向)を計測した。
画像解析として、脊椎・骨盤帯・下肢にマーカーを貼付したものを撮影し、各マーカーの座標を分析した。
30%課題では、画像解析において明らかな骨盤の側方傾斜・後傾は生じなかった。
COPの支持側および後方への変位量は、骨盤の支持側傾斜・後傾によって、増加傾向を示し、30%課題と比較して90%課題で後方変位量が有意に増加していた(p<0.05)。
30%課題では骨盤後傾が少なく、COPの前方変位量が大きく、60・90%課題では後方及び支持側への変位量が増加しており、骨盤後傾、支持側傾斜の増加を認めた。
「芳香療法についての文献的検討 ―東洋医学との相関性―」
久野 利和
近年、出版されているアロマテラピー等々の書籍は、東洋医学と結びついているという文献上の根拠は明確ではない。
そこで芳香の同意語の記載のある医書文献35種類を挙げ、その文献中の用法や用例の確認作業を行った。
その結果、現代のアロマテラピー的療法は、晋代以降の中国医学文献中に存在しなかった。
それは、精油が医学的な用途ではなく、香りのする燈明用の油として一般庶民の生活で存在していた。
香の表現は難しく、香を味と結び付け、黄帝内経霊枢にみられるような五味に関係性を持たせた。
これが今日の東洋医学とアロマテラピーと結びついたのではないかと考えられた。
「下腿回旋肢位の違いと等尺性膝伸展課題中の大腿四頭筋の筋活動」
島谷 晋治
下腿の回旋肢位を変化させた膝伸展課題を行うことで大腿四頭筋の筋活動を明確にし、リハビリテーションに応用する目的で検討を行なった。健常男性12名を対象とした。
筋力測定器用いて膝関節90°屈曲位にて、5秒間かけて膝伸展の最大筋力を発揮する等尺性膝伸展課題を実施した。その際、下腿の回旋肢位を内外旋中間位・外旋位・内旋位とし、内側広筋斜頭、内側広筋長頭、外側広筋、大腿直筋、中間広筋より筋電図を記録した。
各筋において、下腿回旋肢位の違いによる筋電図振幅値に有意な差を認めなかった。大腿の深部に位置する中間広筋の筋電図振幅値は内側広筋斜頭と強い相関を認めた(rs=0.71, p < 0.01)。
下腿回旋肢位の違いは大腿四頭筋の筋活動に影響を及ぼさなかったが、臨床場面で中間広筋の筋活動を把握したい場合、表層にある内側広筋斜頭の筋活動を把握することが重要であると考えられた。
「立位での一側下肢への側方体重移動における非移動側足部周囲筋の筋活動パターンの検討 LHA変化なし群とLHA内反群における検討」
清水 貴史
立位での側方体重移動における非移動側下肢の役割を解明する目的で、側方移動中の姿勢変化と非移動側足部周囲筋の筋活動パターンについて、健常男性15名(23.4±2.1歳)を対象として検討した。
直立位より2秒間で側方体重移動させ、足底圧中心、非移動側腓腹筋内側頭・外側頭、ヒラメ筋、腓骨筋群、足部内反筋群の筋電図波形、ビデオ画像を計測した。
立位での側方体重移動にともない非移動側下腿は移動側前方へ傾斜した。その際足関節背屈に加え、横足根関節回外し下腿踵骨角が変化しないパターンと距骨下関節回外にて踵骨に対して下腿が移動側傾斜し下腿踵骨角が内反位を呈するパターンを認めた。
両者、動作開始直後に腓腹筋内側頭、足部内反筋群の筋活動増加を認めた。足部内反筋群は横足根・距骨下関節回外作用にて下腿移動側傾斜に関与し、腓腹筋内側頭は下腿移動側前方傾斜の制動に関与した。立位での側方体重移動の評価には非移動側足部の機能を理解することが重要である。
「発色酵素基質培地を用いた腸内細菌科細菌における迅速簡易同定法の提案」
髙橋 晃史
細菌感染症において病原微生物を迅速かつ正確に検査し報告することは極めて重要である。
本研究では、発色酵素基質培地であるクロモアガーオリエンタシオン寒天培地に茶色集落を形成する腸内細菌科細菌の菌種における迅速簡易同定法の確立を目的として検討した。
本培地における発育集落の色調および各種性状試験を組み合わせたアルゴリズムを用いて同定を実施した。硫化水素産生能は迅速検査用に改良したSIM液体培地(0.1ml)を、リジンおよびオルニチン脱炭酸能はメラーの培地(0.1ml)を、インドール産生能はDMACAインドール試薬を用いた。菌株は、ATCC標準株および臨床分離株を使用した。
検討対象とした腸内細菌科細菌は、すべて4時間での同定が可能であった。本培地を用いた簡易同定法は従来法と比較し迅速にできるように改良された。簡易かつ低コストにて実施できるため、日常検査における様々な場面で活用されると期待される。
「チアゾールオレンジを用いたフローサイトメトリーによる網赤血球標準測定法の検討」
藤井 菜々美
網赤血球数標準測定法として、チアゾールオレンジ(TO)染色するフローサイトメトリー(FCM)法が規定されているが、他の血球による影響が認められるため、精確な測定法の確立を目的として検討した。
健常人7名からEDTA2K加血を採取し検討に用いた。網赤血球比率測定法はTO法(TO染色)、TO法と同時に赤血球(CD235a)を染色(CD235a法)、または血小板(CD41)・白血球(CD45)を染色してこれらを除外(CD41・CD45法)の3法によるFCM法を比較検討した。
TO法、CD235a法、CD41・CD45法の同時再現性は各CV3.2%、8.1%、4.1%であり、CD41・CD45法の網赤血球比率平均値は3法の中で最も低値を示した。
TO法はゲート内CD41+細胞の影響、CD235a法は高発現CD235aによる凝集の影響が推察された。結論として、CD41・CD45FCM法は他血球の影響を受けにくい良好な方法であることが示唆された。核酸を含有する白血球や血小板の干渉作用を受けないCD41・CD45FCM法は網赤血球参照法として有用である。
「体温と生活習慣からみた若年女性の冷え症の特徴」
馬 瑜
若年女性の冷え症の特徴を、体温や生活習慣などから検討した。
対象は女性14名(平均20.9歳)で、楠見ら、Sakaguchiら、坂口らの冷え症判定基準で、それぞれ冷え症群と非冷え症群に分類し、生活習慣などとの相違をX2検定で求めた。
さらに、冷え随伴症状や独自に作成した生活習慣の評価、鼓膜温、腋窩温、手部皮膚表面温、下腹部深部温を測定し、3つの判別得点との相関を求めた。
3つの判定規準での冷え症・非冷え症の分類の一致率は85.7%であった。判別得点と各測定項目との相関では、判別得点が高い程、楠見らの基準では、合谷の皮膚温が低い、鼓膜温・腋窩温と左合谷の温度差が大きい、運動頻度が少ない、Sakaguchiらの基準では、下腹部深部温が低い、合谷の皮膚温が低い、腋窩温と右合谷の温度差が大きい、鼓膜温と合谷の温度が大きい、という特徴がみられた。
若年女性の冷え症は、合谷の皮膚温、中枢温度との温度差で特徴付けられることが示唆された。
「母指と他4指との対立運動の運動イメージが脊髄前角細胞の興奮性に与える影響 ―JMIQ-Rを用いた検討―」
李 圭敦
運動イメージの明瞭性の違いによって、母指と他4指の対立運動の運動イメージが脊髄前角細胞の興奮性に与える影響を検討した。
健常人30名(平均年齢23.8±4.8歳)を対象とし、JMIQ-Rを用いて、中央値から運動イメージ明瞭性の高い群、低い群に選別した。課題は右母指対立運動とし、安静時、課題1(示指)、課題2(中指)、課題3(環指)、課題4(小指)の運動イメージ中にF波を導出した。安静時を1とした振幅F/M比相対値と出現頻度相対値を各課題で比較した。
運動イメージ明瞭性の低い群では、振幅F/M比相対値は課題1、2と比較して、課題4で有意に増加した。出現頻度相対値は有意差を認めなかった。運動イメージ明瞭性の低い群では、示指や中指よりも小指の運動イメージを想起することで、脊髄前角細胞の興奮性が増大する可能性が示唆された。