2018年06月29日
ブタは人類の救世主になりうるか
はり灸・スポーツトレーナー学科 小河健一
1型糖尿病は、血糖を下げるホルモンであるインスリンを唯一分泌できる膵島(すいとう)が、何らかの原因で破壊されてしまい、インスリンが欠乏して高血糖になる病気です。膵島は一度破壊されてしまうと、自然復活することができません。
現在1型糖尿病の治療法は、①インスリンを一生投与し続ける(根治にはならない)、②膵島移植をする、の2つが考えられています。
①の方法は毎日注射をうち続けることになります。インスリンをうつ前に血糖値を計測し、注射器等を使ってインスリンをうちます。この時、体に針を刺すことになります。針を刺す回数は年間3000回を超えることもあり、幼い患者やその家族の心と体に大きな負担が強いられます。
しかし、根治が期待できる「②膵島移植」にも課題があります。わが国では、亡くなった方からの膵臓の提供は少なく、移植を受けられる人数が少ないのが現状です。また、移植に伴う拒絶反応を抑える免疫抑制剤による副作用があります。さらに、移植をしてもインスリン投与の必要がない期間が長く続かない(3年程度)ということです。
このような課題をクリアするため現在研究が進められているのが、iPS細胞やES細胞による膵島の再生、そして、免疫隔離膜のカプセルを活用した「バイオ人工膵島移植」と言われる治療方法です。
「バイオ人工膵島移植」とは、無菌状態の環境で育ち、ヒトへの移植に適した清潔なブタから「膵島」を取り出し、免疫隔離膜のカプセルで包んで、患者の体に移植する治療方法です。免疫隔離膜のカプセルは移植した膵島を免疫細胞からの攻撃を避けるために用いられます。
実はブタは最もヒトへの臓器移植が期待されている動物で、ブタからの臓器移植は世界中で盛んに研究されています。異種移植は臓器不足を解消する手段として、ニュージーランドやロシアなどでブタから人への移植が200例以上行われています。残念ながら国内での実施例はありません。明治大や京都府立大などのチームは、人への移植用のブタを作製したとして、2018年3月10日に開かれた日本異種移植研究会で発表しました。 動物の臓器や細胞を人に移植する「異種移植」に関する国の指針に基づき、移植用動物を作ったのは初めてで、来年初めには民間企業と共同でブタの供給を始める方針です。ブタが糖尿病患者をはじめ、移植の必要な患者の救世主になりうるか、今後の研究成果が待たれます。