2021年10月29日
何かが違うけど、うまく言えない(近藤哲哉)
臨床医学ユニットの近藤です。
テニスの2020年全豪オープン決勝、4大大会優勝経験もあるムグルーサがサーブでトスしたボールが左手からうまく離れず、ダブルフォルトが8回も起こりました。特に最終ゲームに至っては3回も起こってしまい、最後はダブルフォルトで試合が終わりました。
トスは前腕の正中にボールの重心をかけ中指を伝って手から離れることから、心包経筋という、中指から胃の入り口につながる身体の架空の筋(すじ)の各部位の筋の伸長、関節の角度を脳に伝えて微調整することができなくなった状態であると考えられます。
鍼灸は生体の微調整システムに作用することから、鍼で体の要所要所に小さな刺激を加えることにより、「あなたの体はこのような形をしているんですよ」と再認識をさせていると考えています。自分の体がどうなっているかが分からない状態を失体感症といい、これを測定する質問紙が九州大学で開発されました。
これを用いて鍼灸が体感にどのような影響を及ぼすかを研究しています。
また、複雑な微調整システムは一般にゆらぎやカオス的な振舞い(初期値のわずかな違いが結果の大きな変動につながり予測ができないこと)の原因となっていると考えられています1)。陸上の日本記録保持者である福島千里が最近不調で、「クラウチングスタートの手の付き方が何か違う。だけど、どこが違うのか説明できない。」と言っていますが、スタートのポーズを初期値と考えると、ちょっとした違和感が100m走の結果に大きな影響を及ぼすのはカオスであるとも言えます。そのため、鍼灸が微調整システムを介して生体のゆらぎやカオスに作用しているのではないかという仮説を立てています。そのため、指先に付けた装置から指先に来る血管の脈のリアプノフ指数(予測不可能性の指標)や、これに複雑性という指標を組み合わせて計算し体力の有無との相関が報告されているミラーバリューという指標を求めています。
1. 成田大気, 本間経康, 酒井正夫, 他: 複雑系モデルを用いた生体循環系ダイナミクスの解析. 東北大医保健学科紀要 15 (2): 125-135, 2006