2021年11月12日
未病を知ることが未病を治すことにつながる(戸村多郎)
鍼灸学ユニットの戸村です。
私は世界で初めての未病(病気の前段階)の評価尺度「未病スコア®(五臓スコア®)」を開発し、予防医学に役立てています。未病とは、健康であっても病気へ向かいつつある段階のことです。病気の最大の予防方法は本人が知識を持っていること。養生などのセルフケアで健康管理を行うときや鍼灸師など健康提供者の業務を補える存在になればと考えます。
現在、研究と同時に未病の概念を知っていただくための活動を行っています。
スコア開発のきっかけとなったのは学生の研究指導でした。鍼の効果を検討するために介入研究をすることになり、使うツボを決める参考に先行研究をひもとくと、同じ症状でも統一性がありませんでした。東洋医学のエビデンスに基づく診断方法が殆ど無かったのです。そこで簡便で普遍的に評価できる尺度の開発に着手しました。東洋医学の症状(いわゆる不定愁訴)773種を調査収集し、統計学的に解析を行い15項目5パターンのスコアが出来ました。この関連論文は和歌山県立医科大学で評価され、西洋医学における私の博士論文となりました(Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine, vol.2013, Article ID 928089.【公開時Impact Factor 4.774】【関西医療大学2014年度優秀論文賞】)。これまで東洋医学における評価基準の科学化で、学位を授与されたのは殆どありません。スコアは当時、五臓スコアと呼んでいたのですが、健康中高年者の臨床検査データの変化を経年的に予測できたことから「未病スコア」と改名しました。また最近の研究では、スコアがフレイル(虚弱)、サルコペニア(筋減少)を捉えた可能性がありました。これからは、これまで蓄積された未病の知見をもとに、健康保険が適用されないために見逃されてきた未病状態の解消に向け、研究の社会還元にも注力していきます。
人は病気を感じますが健康を感じません。皮肉なもので病気になって初めて健康が意識できるのです。東洋医学の未病は健康の範疇で、未病状態の人に「健康になりましょう」ではピンときません。さらに、日本は国民皆保険制度のおかげで世界に類を見ないほど医療機関へのアクセスが良く、その影響もあり国民は「私の病気(健康までも)を良くしてもらいたい」と、知識や自覚、自助努力の低い他者依存になっています。私の活動「未病知で未病治」は、未病を知って不調にラベルを貼ることで「悪くなりそうなとき」がわかるようになり、早期予防(早期発見ではない)が出来るようになることを目指しています。未病の概念が多くの人に認識されるようになれば、自分の心身の調子を意識する機会が増え、自分で自分をメンテナンスできるようになるでしょう。