2022年05月13日
転ばないためには、ゆっくり、小さく、方向転換を(山﨑航)
理学療法学ユニットの山﨑航です。
私は、歩行動作のバイオメカニクスについて研究をしています。バイオメカニクスというのは生体力学という学問で、生物の運動機能を研究する学問です。その中でも、私は歩行動作に着目した研究を行なっていますので、紹介させていただきます。
まず、歩行動作とは、皆さんもご存知のように「歩く」ことです。私達、理学療法士は、学生の頃から歩行動作について勉強をしてきていますが、勉強をするうちにまっすぐ進むことばかりに捉われてしまいます。私達が日々の生活で「歩く」際には、まっすぐ進むだけではなく、歩き始めたり、立ち止まったり、方向を変えたり、と様々な場面があります。この様な場面こそ、転倒する危険性が高く、理学療法が必要になることが多いと常々考えていました。そこで、私は、円背の高齢者の方と円背でない高齢者の方が、方向転換動作を行った際の下肢関節の運動や関節モーメント(筋力、言い換えることもできます)に着目した研究を行ないました。この研究は、円背姿勢が高齢者をより転倒させる要因の一つであるという研究報告から、円背姿勢によって方向転換動作に必要となる身体機能がどのように変化するかを検討するために行ないました。
円背姿勢の高齢者は円背姿勢でない高齢者と比較して、方向転換動作が「小回り」で「低速」に行なわれました。これは、円背姿勢に伴って、身体の重心が軸足からより遠ざかるため、身体が旋回する際の遠心力を少なくさせて、安定を保つために必要となりました。また、円背姿勢の高齢者は、方向転換を行なう際に、骨盤ではなく下腿、つまり膝を大きく回旋させることで進行方向を変えていました。これらの知見は理学療法に役立ちます。円背は骨の変形を有することで完治が困難な場合があります。円背が改善しない高齢者は、転倒の危険性を抱えたまま方向転換動作を行ってしまいます。その際に、理学療法を通じて、「小回り」で「低速」に行なう方向転換動作を練習することや、膝関節の可動域を拡大させることが、転倒予防に重要になってくるかもしれません。今後は、方向転換動作がどのような方向に転倒する危険性が高いのか、また、理学療法の介入によってどのように動作が改善するかを研究していく予定です。