FACULTY
/GRADUATE SCHOOL
Blog 関西医療大学NOW!

 この記事を書いている私は、救急法指導員研修を受けたばかりです。私が所属する、はり灸・スポーツトレーナー学科は、生きている限り絶対に避けられない「健康と病気」、そして「スポーツ」を軸にしている学科です。在学中・卒業時には国家資格を筆頭にさまざまな資格が取得できる、いわゆる仕事・キャリアに直結します。そんな社会に直接役立つ卒業生を送り出す大学なので、学生に救急法を伝える指導員がたくさん在籍し、毎年アップデートをします。

 さて昨年、日本人の平均寿命が女性87.7歳、男性81.6歳となりました。この平均寿命から健康寿命を差し引きますと、亡くなるまで苦しむ期間が女性で12.07年、男性で8.73年もあり(2019年時点)、この間に一生の医療費の約半分を使うと言われています。人生100年時代といわれても、単に苦しむ期間だけが延びるのはごめんですよね。今、日本は最大の社会課題である少子高齢化で医療・介護費の増加、年金の増大、税収の減少といった負のスパイラルに陥っています。国民や国家も健康寿命や就労期間を延ばしたいと動き出し、その中で近年、国家が使い始めたキーワードが『未病』です。

 未病は二千年以上前から使われる東洋医学の専門用語で、西洋の医学事典にも「西洋医学的には異常とは診断されません。漢方医学では未病を治すのが最高の医学と考えられている」(南山堂医学大辞典第20版抜粋)などと記載があります。未病の段階で治すということは、すなわち予防医学に近く、政府はどうして予防ではなく未病(治)を用いたのでしょうか。国民に病気の前の段階、未病(いわゆるなんとなく不調)に関心を持たせ、医療保険制度(健康保険)をなるべく使わせないようにしたいという意図があるのではないでしょうか。保険診療には周知の通り高い壁があり、健康の範疇である未病に健康保険は使えません。未病を医療費抑制に繋がるキーワードとし、意識を高める狙いがあることは否めません。私は世界でも数少ない未病の研究者です。私も未病状態の人を見つけたら「早期発見」とは言わず、「早期予防」を使います。発見なんか使ってしまうと、特定の病気・疾患と勘違いされて、医療費増大に繋がりかねませんから慎重に言葉を使っています。

 一方、未病研究者の立場から上記の社会課題を考えたときに、特に医療費の3分の1以上が生活習慣病で使われていることが気になります(経済産業省2018年)。生活習慣病の原因がすべて生活習慣からくるとは限りませんが、私たちがどんな習慣を身についているかで病気との関係性が決まるといっても過言ではありません。現在、人口の約30%を占める高齢者ですが、介護状態になる前段階、要支援状態になる主な原因が関節疾患、衰弱と骨折・転倒で、フレイル(虚弱)、サルコペニア(筋肉減少)対策が未病予防として重要であるとわかります。結局、フレイルには栄養、サルコペニアには運動、それらを見守るための環境には、独り暮らし対策としての社会参加といった生活習慣が大切です。もちろん多くの国民は、何が健康に良いかを知っています。しかし「健康のために生きている」人はいませんので、いくら「健康になりましょう!」と伝えても、なかなか行動を起こせませんし、起こせても続きません。私たちには「知識→習慣」の間に谷(分断)があり、健康バリューチェーンにおいて「→:伝え方」いわゆる仕掛けが必要なのです。

 東洋医学は治すだけじゃなく、健康に良いことを楽しむコンテンツでもあります。内閣府の報告では(2021年)では、高齢者が生きがいを感じる時は、「おいしい物を食べている時」「テレビを見たり、ラジオを聞いている時」「他人から感謝された時」などで、コロナ禍の状況でさらに割合が増加しています。まとめますと、食事、情報、自己効力感で、高齢者が互いに東洋医学を使った養生のアドバイスをする活動が「生きがい=習慣化」を導き出されるのではないかと考えます。人は誰でも、役に立ちたい、繋がりたい、学びたいと望みます。「人生100年時代」において、国民の健康と生きがいづくりに、東洋医学の知識を活かした食事(薬膳)、運動(ヨガ)などのワークショップで背中を押す活動を進めています。最近では、生活習慣改善や健康行動を「なぜするのか」から「どうやってするのか」を伝える手段として、東洋医学に親和性があるヨガに「皮膚」という新たな視点を取り入れたものを開発しました。コロナ前ではありますが経済産業省の調査では、今後の成長分野(運動)に「ヨガ・ピラティス・ストレッチ」があげられ、一般に浸透し、習慣化できる見込がありました。

 私は、国民が東洋医学を楽しみながら未病を知り、学び、生活習慣改善や健康行動の先に、健康寿命延伸や予防医学に繋がる未来があると考え、「未病知は未病治」を推し進めています。