2022年11月25日
業務中に衝撃的な体験をしたスタッフへの支援(林直樹)
作業療法ユニットの林です。現在行っている研究について紹介します。
わが国の自殺率は男女ともに先進国において最も高い数字であり、深刻な社会問題の一つとなっています。そして、自殺者の約9割は自殺の直前に何らかの精神疾患に罹患しており自殺が精神疾患と密接に関連しており、また自殺は周囲の者に様々な心理的苦痛や脅威的な体験をもたらすということが多くの調査により明らかにされています。
わたしたち作業療法士が関わる領域の一つに精神疾患を持つ方を対象とする精神領域があり、そこでは自殺予防への介入も行なっています。そのため精神領域で勤務する作業療法士においては、患者の自殺を体験しそれによりストレスを抱えるという状況が想定されますが、現在のところ患者の自殺体験により被る影響やその影響を最小限にするような支援に関する研究は見当たりません。そこで研究では、精神領域で勤務する作業療法士が受ける患者の自殺の影響を最小限にするような職場支援体制の構築を最終目的とし、その第一段階として、精神疾患患者の自殺を体験した作業療法士に生じたストレス反応とその経過、および対処行動を把握し、患者の自殺体験から立ち直るプロセスの仮説生成を行いました。
結果ですが、患者の自殺を体験した作業療法士は、体験直後に全員が激しい心的動揺や強い自責感を感じ、しばらくすると知らず知らずのうちに職場において周囲から孤立する状態に陥っていました。これは日本社会では自殺をタブー視し、そのことを話題にしてはいけないといった態度を持ちやすい傾向がみられ、無意識のうちに周囲の者との対話が減ってしまうことが考えられます。しかし患者の自殺を体験した全員が体験後に周囲の者との対話による振り返りを望んでおり、患者の自殺体験後には周囲の者との対話を図れるような支援の必要性が示唆されました。
今後は、支援を行う側の作業療法士(管理者など)にインタビュー調査を実施し、支援を受ける者・支援を行う者双方のプロセス分析を通して、患者の自殺の影響を最小限にするような職場支援体制の構築を検討して行く予定です。
ひとを支える対人援助職として、患者介入を第一に考えることは自明のことではありますが、仲間であるスタッフへの支援を考える視点も大切にして研究を進めていきたいと思っています。