2023年03月10日
かゆみについて(その1) (深澤洋滋)
基礎医学ユニットの深澤です。皆さんの中には、かゆくなったことのない方はいらっしゃらないと思います。日常的な「かゆみ」は、かゆみ止めを塗ったり、掻いたり、冷やしたりすると治まるのが大半です。そのため、大きな問題になることが少なく、さほど皆さんも気に留めていないのではないでしょうか。
実際に研究の世界でも2000年頃まで、ほとんど詳細な「かゆみ」の研究は行われていませんでした。そのため、それまでの教科書には、「かゆみ」についての記載はほとんど無く、記載があっても非常に弱い「痛み刺激」が「かゆみ」として知覚されると考えられていました。しかし、アトピー性皮膚炎に代表されるように、「かゆみ」のためにぐっすり眠れなかったり、皮膚を傷付けてしまうほどかきむしったりするなど、難治性の「かゆみ」が少しずつクローズアップされるようになり、現在では「かゆみ」は見逃すことができない病態であると認識されるまでになりました。そのおかけで、2010年頃からは世界中で本格的に「かゆみ」の研究が進められるようになったのです。そこで、私のブログでは数回にわたり「かゆみ」についての知識と最新の研究についてご紹介させて頂きます。
第1回目の今回は「かゆみ」と身近な感覚である「痛み」との違いについて考えてみましょう。
「かゆみ」と「痛み」、それぞれの感覚はどこで感知されるでしょうか?
「痛み」は、皆さんにとって非常に馴染みのある感覚で、やけどや皮膚を傷付けたときの痛み、頭痛、筋肉痛、腹痛といったように全身の多くの器官や組織で感知されます。一方、「かゆみ」は頭の中がかゆくなったり、お腹の中がかゆくなったりすることはありません。つまり「かゆみ」は「痛み」に比べるとかなり限られた部分にしか起こらず、それを感知する部位は皮膚の表層と鼻や目にある粘膜の一部に限られているのです。このように感知できる部位が「かゆみ」と「痛み」では大きく違うのは、「かゆみ」や「痛み」を引き起こす刺激が異なり、その後の反応が大きく異なるためだと考えられています。つまり、「痛み」は体を傷付ける可能性のある外部からの刺激や体内において発生した異常を捕らえ、体を傷付ける外部刺激からはすぐに「逃避行動」を引き起こし、深い傷を負わないようにします。また、体内の異常に対しては「防衛行動」を引き起こし、体を休めるように働きかけるのです。
一方、「かゆみ」は、皮膚や粘膜にとまった蚊やノミなどの害虫や、ウルシの樹液などに含まれる潜在的に身体に害を及ぼす成分を感知し、「引っ掻き行動」や「くしゃみ」などの行動を引き起こし、これらの有害成分を皮膚や粘膜上から取り払うための感覚なのです。
このように「かゆみ」と「痛み」は、共に私たちに危険を伝えるアラームの役目を担う重要な感覚なのですが、引き起こす刺激が異なり、さらにその後に誘発される反応が異なる点からも、異なる感覚であることが分かっていただけたでしょうか。そして現在ではさらに、「かゆみ」と「痛み」は全く異なる神経により伝えられる、全く異なる感覚であることが動物を用いた研究により世界的に認められるようになりました。
次の2回目では、「かゆみ」を伝える神経についてその詳細についてご紹介させていただきます。