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Blog 関西医療大学NOW!

鍼灸学ユニットの戸村です。私は世界で初めての未病(病気の前段階)の評価尺度「未病スコア®(五臓スコア®)」を開発し、予防医学に役立てています。未病とは、健康であっても病気へ向かいつつある段階のことです。病気の最大の予防方法は本人が知識を持っていること。養生などのセルフケアで健康管理を行うときや鍼灸師など健康提供者の業務を補える存在になればと考えます。現在、研究と同時に未病の概念を知っていただくための活動を行っています。
前回、「未病スコア開発のきっかけ」「人は健康を感じないから困る」を書きました。研究論文執筆の際、始めや終わりに「どうしてこの研究をするのか(したのか)」「世の中の現状や問題点」について述べるのですが、今回は「未病の概念が世の中でどう理解されているのか」をお伝えしたいと思います。
未病の症状はいわゆる不定愁訴、医学的に説明のつかない症状(Medically Unexplained Symptoms :MUS)です。厳密にいうと、未病のように診断名がつかないものに診療報酬が支払われないので、残念ながら日本の医療では未病は医療外、健康の範疇で扱われて届きにくいのです。とはいえ、西洋医学の辞典では東洋医学の概念である未病が掲載されています。ところで皆さん、「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」と憲章を提唱した組織、World Health Organization(WHO)はご存じですか? 世界では今から約80年も前に「疾病又は病弱でなくても健康とは限らない」と、健康の中にある未病の存在を問題視し、ここでも未病は病気の外で扱われています。
医療が未病に対して積極的に関われていない結果が、医科診療費の3分の1以上の生活習慣病関連(経済産業省2018年)といった現状を招いているといっても過言ではありません。これを受けて近年では「厚生白書(1998年)」、閣議決定「健康・医療戦略(2014年・2017年)」、成長戦略会議「未来投資会議(2019年)」、政務調査会「J-ファイル(2019年)」と立て続けに、未病という東洋医学の言葉をもちいて生活習慣の改善が叫ばれているのです。医療に留まらず、経団連でも提言「Society 5.0時代のヘルスケアⅡ(2020年)」に未病が盛り込まれ、「自分の健康は自分で守る」「未病を評価するアプリづくり」「政府認証の制度化」が記されています。
私の2010年から始まった未病治ロードマップ「1.評価方法の確立(未病の見える化・アプリ化)、2.国民が自ら健康をデザインするための気づきの提供による健康行動の継続(企業コラボ/健康増進・疾病予防を「楽しむ」)、3.未病治サービスの信頼性・安全性の確立(実証研究)、4.行政・自治体と取り組む」ですが、現在第三段階の実証研究に着手するところまで来ました。今後も国民に向け、生活習慣改善・健康行動継続のため「未病の概念」を浸透させる活動を継続していきます。