2023年06月02日
鍼治療による皮膚血流増加に一酸化窒素が関与する ―マイクロダイアリシスによる検討― (木村研一)
鍼灸学ユニットの木村です。鍼灸治療による血流改善によって肩こりやスポーツによる筋疲労、冷えなどの症状が緩和することが知られています。しかし、何故、鍼灸治療によって血流が良くなるかは詳細には分かっていません。
今回は私たちが行った、鍼治療による局所の皮膚血流改善に血管内皮細胞から放出される一酸化窒素(nitric oxide, NO)が関与しているかという点について、ヒトで検討した研究を紹介します(Acupuncture in Med, 2013)。動脈の最も内側にある血管内皮細胞が刺激されると、細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇し、NO合成酵素が活性化し、それによって放出されたNOが血管平滑筋を弛緩させます。私たちは科研費の支援を得て、鍼灸刺激による局所の皮膚血流反応へのNOの関与についてマイクロダイアリシスを用いた研究を行いました。マイクロダイアリシスとは細いマイクロダイアリシスプローブの微細な穴のある半透膜の部分より薬剤を拡散する方法です。溶液の投与にはマイクロシリンジポンプを用いて、一定の流量で注入されます。このマイクロダイアリシスを用いて、1つのプローブにはNO合成酵素阻害薬であるL-NAMEという薬剤を投与し、もう1つのプローブにはコントロールとしてリンゲル液を投与しました。鍼刺激はプローブの近傍に置鍼し、鍼刺激による皮膚血流反応をL-NAME投与部とコントロールとで比較しました。
その結果、鍼刺激による皮膚血流増加はL-NAME投与部でコントロールに比べて抑制しました。このことより鍼刺激による皮膚血流増加にはNOが一部、関与していることが分かりました。今後はNO以外の新たな血管拡張物質の関与についても研究が必要だと思われます。