2023年12月08日
今後の運動部活動はどうなるのか?-スポーツ政策からの検討-(尾原弘恭)
ヘルスプロモーション・整復学ユニットの尾原弘恭です。本学は医療系の大学であるため自然科学、特に医学分野の研究が主流を占めていますが、私の研究は人文社会科学における政策科学、そのなかでもスポーツ政策を専門にしており、現在の研究は主に学校教育の中でも問題が山積している中学校、高等学校の運動部部活動制度を扱っています。その制度が成立する、もしくは成立させた決定プロセスである政策過程に着目し、そこに組織のガバナンスや社会状況などがどのように関与するのかを踏まえて検討しています。このような制度やその決定プロセスについての研究は医療・健康分野における研究とはかけ離れていると思われるかもしれませんが、そもそも医療・健康分野も制度で成り立っていることから、その研究の意義や重要性、関連性は高いと考えられます。
この研究に至った動機は、中学校・高等学校という中等教育課程を中心に運動部活動は独自の発展を遂げ、独特のスポーツ文化、ひいては学校文化として成立しているにも関わらず、近年はそのような効果への過度な期待をするあまり、また社会状況の急激な変化により、部活問題と称されるネガティブな事象が顕在化し、期待される効果と大きな乖離が生じていることからになります。このような運動部活動をめぐる現状を政策過程に問題があると捉え、特に政策決定に至るプロセスをどのように再構築するのかを課題として設定し、部活問題を発生させない望ましい運動部活動の根本的な制度設計を目指すものとなっています。
具体的には、運動部活動の歴史や現状から運動部活動そのものを明らかにしたうえで、その政策過程の分析を通じ、抽出された課題より政策形成過程モデルを提示し、運動部活動と地域社会との一体化した連携の制度について言及しています。多くの運動部活動研究や運動部活動を扱った教育学や教育社会学を中心とした研究では運動部活動の問題点の指摘に終わっているものが多いなか、公共政策としてスポーツ政策にアプローチし、政策形成過程の再構築に言及したところは今までのあまり追求されてこなかった部分になります。このモデルの実現は、今後の運動部活動や学校教育における議論に一定の示唆を与え、望ましい運動部活動の再構築に有効に作用し、さらには地域社会と一体化した学校の実現、ひいては地域社会の活性化にもつながり、社会問題解決への示唆を与えるものになると考えられます。
今後は、このような運動部活動制度に医療系国家資格保持者や医療従事者、教員以外のスポーツ指導者などがどのように関与していけるかということ(新たなスポーツ指導者資格制度など)を、実証研究を通じて、さらに実現可能なモデルを検討し提唱したいと考えています。