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 理学療法ユニットの東藤真理奈です。現在、本学発案の経穴刺激理学療法という理学療法と東洋医学を融合した治療技術の神経生理学的な効果について研究しています。今回は、治療経穴の選穴に着目した研究内容をご紹介します。

 経穴刺激理学療法(Acupoint Stimulation Physical Therapy; 以下ASPT)とは、鍼灸医学における循経取穴の理論を応用して本学の鈴木俊明教授と谷 万喜子教授によって開発された新しい理学療法の手技です。症状のある部位や罹患筋上を走行する経絡を同定し、その経絡上に存在する経穴を治療部位として、圧刺激を与える方法です。圧刺激方法には2種類あり、罹患筋に対応する経絡に所属する経穴に対して垂直方向に圧刺激を与えることで筋緊張の抑制効果が得られ、罹患筋に対して斜め方向に圧刺激を与えることで筋緊張の促通効果が得られると報告しています。我々の先行研究では、このASPTの効果を誘発筋電図の1つであるF波を用いて検討しました。F波とは筋を支配するα運動ニューロンの根源となる脊髄前角細胞の興奮性を反映する指標です。理学療法の臨床経験において、脳血管障害後遺症に見られる手内在筋の筋緊張異常による日常生活機能の低下は、改善するべき重要な症状です。手指機能に着目しておこなったASPTの筋緊張調整効果については、短母指外転筋上を走行する経絡である手太陰肺経から尺沢(しゃくたく)を選び、尺沢への圧刺激が短母指外転筋に対応した脊髄運動神経機能の興奮性を低下させると報告しています。  我々が次に着目したのは、短母指外転筋の支配神経である正中神経と、経絡の一部が正中神経上を走行する手厥陰心包経の経穴に対するASPTの効果についてです。手厥陰心包経のうち、正中神経上に位置する郄門(げきもん)と、正中神経の走行から外れた位置にある曲沢(きょくたく)の2穴を圧刺激の対象としました。短母指外転筋の筋緊張調整において従来の罹患筋に対する循経取穴ではなく、新たな視点として罹患筋の神経支配と経絡の走行に着目した経穴刺激効果を検討しました。 その結果、郄門ではASPT実施直後から抑制効果が確認できた一方で、曲沢ではASPT実施10分後から抑制効果が認められました。以上のことからASPTの筋緊張調整効果については、従来の罹患筋と経絡の関係を考慮することが最も効果的であるが、罹患筋の支配神経の走行と経絡の関係から、治療経穴を選ぶことでも効果が得られる可能性が認められました。現在はASPTの促通刺激が与える脊髄運動神経機能への影響を神経生理学的に解明したいと思い、研究に取り組んでいます。