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Blog 関西医療大学NOW!

 基礎医学ユニットの深澤です。前回のお話では、「かゆみ」と「痛み」は全く異なる感覚で、異なる神経により脳に伝えられることをご紹介しました。今回は「かゆみ」を伝える神経についてご紹介します。
 私たちの感覚(かゆみ・痛覚・温度感覚・触圧覚)を伝える末梢の神経線維は形状や電気的な特徴により、Aβ線維、Aδ線維、C線維の3種類に分類されてきました。これらの中で「かゆみ」と関連が深い神経線維がC線維になります。このC線維には、神経を流れる情報(電気信号)のスピードを速める働きを担う髄鞘(ズイショウ)と呼ばれる被膜がないため、他の2つの線維と比較して情報を伝えるスピードが遅いのが特徴です。とはいっても、伝わるスピードは毎秒0.4〜2 m程度ですから、「かゆみ」を伝えるには十分なスピードといえるでしょう。また、痛みの中でも鈍い痛みが同じC線維により伝えられているため、「かゆみ」は弱い痛みであるとする誤解が生み出されたと考えられています。
「かゆみ」を伝える末梢のC線維は、その神経の末端に存在する受容体の種類によりさらに分類されました。受容体とは神経の末端に備わっているセンサーで、外部からの「かゆみ」を引き起こす物質が、受容体に結合することにより神経が活性化し,その刺激が神経を経て脳へと伝わる仕組みになっています。それぞれの受容体は特定の1つの物質にしか反応できないため、その関係は「鍵とカギ穴」にたとえられています。「かゆみ」を伝えるC線維のさらなる分類に用いられたのが、花粉症による目の「かゆみ」で有名な「ヒスタミン」の受容体です。ヒスタミンは「かゆみ」を引き起こす成分として100年以上前から知られており「かゆみ」物質の代表的存在です。そこで、「かゆみ」を伝えるC線維はヒスタミンの受容体を持つもの(ヒスタミン依存性神経線維)とそうでないもの(ヒスタミン非依存性神経線維)に大きく2つに分類されました1)。この2つの神経経路は互いに密接な関係を持つものの、独立したものであると考えられています。ヒスタミン依存性神経線維は、主にヒスタミンによる「かゆみ」情報を伝え、急性的な「かゆみ」に関与する経路であると考えられています。一方、ヒスタミン非依存性神経線維は、ヒスタミン以外の様々な「かゆみ」物質の受容体を発現しており、慢性的な「かゆみ」に関与する経路ではないかと考えられています。
 このように、「かゆみ」を伝える神経線維はC線維の中でもヒスタミン依存性神経線維とヒスタミン非依存性神経線維の2種類があると考えられています。しかし、近年のめざましい科学技術の発達により、1つの細胞における遺伝子の発現状況を詳細に解析する技術が開発されました(一細胞遺伝子発現解析)。その技術を活用することで、感覚情報を伝える1つ1つの神経細胞の遺伝子発現状況を解析することが可能となり、その神経線維に発現する受容体の種類をより詳細なレベルで確認することができるようになります。現在多くの研究者が神経線維のより細かな分類に奮闘中で、幾つかの発表がすでになされています2)。今後は、研究により得られた神経細胞のプロファイルをもとに、先ほど紹介した「かゆみ」を伝える神経経路がヒスタミン非依存性神経経路とヒスタミン非依存性神経経路のように単に2種類ではなく、さらに詳しく、より細かく分類されてゆくことでしょう。

参考文献】
1) Yosipovitch G, et al : J Allergy Clin Immunol, 142(5) : 1375-1390, 2018
2) Usoskin D, et al : Nat Neurosci, 18 : 145-153, 2015