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ある日の若手鍼灸師と未病研究者・戸村の会話

戸 村:久しぶりですね。 最近、鍼灸の分野で興味深い話はないかな?

鍼灸師:先生、こんにちは。先日、鍼治療の受療率が5〜7%と聞いて、少し驚きました。つまり、100人のうち5人から7人しか受けていないということですよね。

戸 村:そうですね。この数字は私たちの職業の広がりと、鍼灸の普及にとって重要な指標です。現在、厚生労働省によると、鍼灸師の数は約13万人ですが、その中で   
一人当たりの患者数は年間47〜66人程度です。このことからも、私たちが今後、どう鍼治療を普及させ、効果的な治療法を研究し、優れた鍼灸師を育成していくかが問われています。

鍼灸師:その通りですね。鍼灸師としての成長を考えると、患者を呼び込むためにはどうすればいいのか、悩むことが多いです。

戸 村:悩みの種ですね。「自分の価値が料金を超えられない」と感じている鍼灸師も多いです。しかし、これは技術の細分化や深化に意識が行きがちで、患者の幸せを忘れてしまうことが原因かもしれません。私たち鍼灸師は、患者の痛みを和らげることが大切ですが、それだけではなく、社会のニーズに応じた新しいアプローチが求められています。

鍼灸師:確かに、同じことを繰り返すだけでは進展がありませんね。患者数を増やすためには、規模を拡大するのが一番だと思っていましたが、それが必ずしも成功につながるわけではないということを最近実感しました。

戸 村:そうです。大規模なチェーン店が急成長しても、結局はリソースの無駄遣いで潰れることもあります。そこで大切なのは、質へのパラダイムシフトです。私たち鍼灸師は技術を磨くことが得意ですから、その技術をどのように活用するかが鍵になります。つまり、治療方法だけでなく、患者や社会全体に対する役割を考える必要があるのです。

鍼灸師:なるほど。鍼灸院は治療技術を売るだけでなく、健康という幸せを提供する必要があるわけですね。

戸 村:その通りです。従来の鍼灸院は内部要素に重きを置いていましたが、今後は外部のニーズをしっかりと捉え、患者一人ひとりに寄り添い、彼らの幸せに貢献することが求められます。

鍼灸師:具体的には、どのように進めていけばいいのでしょうか?

戸 村:まず、私たちが持つ直感力と感性をさらに磨き、新しい価値を生み出すための分析力と創造力を養う必要があります。鍼灸師はアーティストであり、同時に科学者でもあるのです。

鍼灸師:でも、どうやってその分析力や創造力を身につければいいのでしょうか?

戸 村:それがまさに大学院で学ぶ理由の一つです。大学院では、研究を通じて実証的な知識やスキルを身につけることができます。例えば、鍼灸師が直面する社会課題を解決するために、データに基づいたアプローチを学ぶことが重要です。

鍼灸師:データに基づくアプローチですか? 鍼灸の分野では、統計学やデータ分析の重要性が増しているということですね。

戸 村:そういうことです。統計学は、集めたデータから知見を引き出し、意思決定に活かすための基盤となります。たとえば、患者のデータを分析することで、新しい治療法を見つけたり、治療の効果を具体的に示したりすることができます。これによって、鍼灸の効果を社会に伝え、受療率を向上させることができるのです。

鍼灸師:確かに、私たちの施術がどれだけ役立っているのかを具体的に示すことは大切ですね。

戸 村:さらに、生成AIの時代においては、AIの出力を批判的に評価し、論理的に考える力が求められます。大学院で統計学やデータ分析を学ぶことで、AIが出力した情報の妥当性を評価できるようになりますし、意思決定の場面でも大いに役立つでしょう。

鍼灸師:なるほど、今の時代に必要なスキルが揃っているのですね。先生の研究室では、具体的にどのような研究を行うことができるのでしょうか?

戸 村:さまざまな社会課題の中でも、未病とその対策である養生をテーマにした研究が特に重要です。政府は2014年以降、「未病」という東洋医学の概念を取り入れ、健康政策を推進しています。私たち鍼灸師は、その効果を証明し、さらなる発展を目指す役割があります。
鍼灸師:そうですね。未病を防ぎ、健康を維持することが私たちの使命でもあります。大学院で学ぶことで、もっと具体的な方法を見つけることができるかもしれませんね。

戸 村:まさにその通りです。学んだ知識を活用して、社会における鍼灸の価値を高めていくことが私たちの責任です。今後の成長のためには、ぜひ大学院での学びを考えてほしいと思います。

鍼灸師:ありがとうございます先生。もっと鍼灸の世界を広げるために、ぜひ大学院進学を真剣に考えてみます。

戸村: ぜひ検討してください。あなたの成長が、鍼灸の未来に大きな影響を与えることでしょう。

 鍼灸学ユニットの戸村多郎です。私は、未病に関する研究で世界初の統計評価を導入し、環境保健予防医学の博士号を取得しました。現在も未病とその養生法の研究を続けています。私の研究は、西洋医学では捉えきれない健康状態の複雑さを東洋医学の視点から解明し、その成果を通じて多くの人々の健康増進に貢献することを目指しています。大学院ではオープンゼミ「とむラボ」を主宰しています。ゼミを開放型としたのは、研究成果を広く社会に還元し、『東洋医学で人類のウェルビーイングを実現する』というビジョンを実現するためです。ゼミには大学院生を含め、予防医学や未病養生研究の意義に共感し、鍼灸師の社会的価値づくりに貢献したいと願う人たちが集まっています。
 鍼灸は、治療技術の品質向上には成功したものの、ブランドづくりには課題が残っています。院内で患者を待つだけでは受け身に過ぎず、鍼灸師自身が「価値」を創り出すことが求められています。現代は自分のキャリアに投資する時代であり、社会人のキャリア形成において大学院進学が一般的となっています。鍼灸師にとっても大学院での研究や学びは、価値や信頼性を高める強力な武器となります。特に、海外のビジネスシーンでは学位が専門家としての証明とされることが多く、院外での展開を考えるなら学位取得は不可欠です。