2024年11月01日
看護師が最後の看護として提供するエンゼルケアの質の向上を目指して(森岡広美)
臨床看護学ユニットの森岡広美です。日本看護協会は、1988年に看護職の行動指針として「看護師の倫理規定」を作成しました。その後、2003年には時代に応じバージョンアップされた「看護者の倫理綱領」として公表しました。この「看護者の倫理綱領」には、看護師が質の高い看護を提供するための「考え」や「行動」の指針が示されています。看護の対象であるすべての人々は、その国籍、人種、民族、宗教、信条、年齢、性別、性的指向、性自認、社会的地位、経済的状態、ライフスタイル、健康問題の性質によって制約を受けることなく、到達可能な最高水準の健康を享受するという権利を有しています。これは、私たち看護師が、どのような人、シチュエーション、健康レベル(急性期・回復期・慢性期・終末期)であっても、看護の質を保証するという意味だと考えます。そして、看護職は、あらゆる場において、人々の健康と生活を支援する専門職であり、常に高い倫理観をもって、人間の生命と尊厳及び権利を尊重し行動しなければなりません。また、常に温かな人間的配慮をもってその人らしい生活の実現に貢献するよう努めるとされています(日本看護協会 看護職の倫理綱領より一部抜粋)。今後、グローバル社会、人生100年時代、超高齢多死社会において、看護の提供の場は益々多様化すると考えます。
今回は終末期にフォーカスを絞ります。看護師が患者やその家族に最後の看護として提供するエンゼルケア教育の現状は、看護基礎教育において、「看護教育の技術項目と卒業時の到達度」や「看護師国家試験出題基準」(厚生労働省)において、教育すべき項目として示されてはいますが、カリキュラムの過密化から、非常にわずかな内容を教授されるか、もしくは全く教授されずに卒業し、看護師となる人が多い実状です。さらに、現任教育においても、緊急性やハイリスク、実践頻度が高い看護ケアである救命処置、採血・注射等の看護技術の教育が優先されており、臨床で経験する頻度に個人差のあるエンゼルケア教育は、臨終期にある患者との遭遇時に、偶々その場に居合わせた先輩看護師から煩雑な状況下で伝授され、エンゼルケアを初めて実践することが多く、その質についても様々な状況(森岡ら,2023*)です。エンゼルケアの3つの目的である「ご遺体の人間としての尊厳を守る」、「遺族の心のケア」、「遺体からの感染を予防する」を達成するには、生前の患者の病気の状態や治療の状況、感染症の有無に大きく左右されます。それらを踏まえた遺体の変化や正しい管理方法、エンゼルメイク、遺体からの感染予防対策、情報共有、家族へのグリーフケアを含めたコミュニケーション技術等、単に場当たり的な経験的知識を伝授する方法では、これらの目的を達成することは困難です。そこで、より現実に近い状況をシミュレーションできる動画教材の開発の構想に至り、私たちの研究チームで作成致しました。動画の視聴により学習者の学習効果を期待できると考えています。看護師は少しでも不安を緩和した上でその時を迎え、より質の高いエンゼルケアを提供し、患者様やご家族には安心して質の高いケアを受けていただけることに繋がることを期待しています。そのためにはあらゆる角度から、看護・医療チーム以外の様々な職種の方々ともコラボレーションし、さらなる充実を図りたいと考えています。
その他にも「看護の質の向上を目指す」ことを軸に、看護教育・教材開発、自分自身が納得いく人生にするための意思決定(ACP)やどのような最期を迎えたいか(QOD)の研究にも取り組んでいます。
日常の様々な看護場面で抱いた疑問を大切にし、一緒に「看護の質の向上を目指すための研究」をワクワクドキドキ楽しみながら探究してみませんか?お気軽にお声かけください。
*森岡広美他:臨床看護におけるエンゼルケアの実状と看護基礎教育に対する要望、日本看護科学学会第43回学術集会、下関(2023)
近日クランクアップ予定