FACULTY
/GRADUATE SCHOOL
Blog 関西医療大学NOW!

 理学療法学ユニットの文野です。前回は運動イメージの可能性についてお話させて頂きましたが、今回は「感情を科学する!」をテーマに、少しですが私の研究についてご紹介させて頂きます。

 皆さん、「心身相関」という言葉をご存知ですか? 例えば、不安を感じたり、緊張したりすると心拍数が上がりドキドキすることがありますよね。このように心と体はお互い影響を与え合う関係にあります。
 脳卒中の患者さんに対して理学療法をおこなう際、ベッドで寝ている場合は麻痺側の腕が伸びているにも関わらず、立位や歩行練習を行うと意図しないで(不随意といいます)麻痺側の腕が曲がってきてしまうような場面(脳卒中の場合、痙縮と呼びます)を経験します。このような現象を生じさせる原因として、「恐怖感」が挙げられます。しかし、恐怖感と痙縮との関連性についてはエビデンスが乏しいのが現状です。
 我々は恐怖感など不快な感情と痙縮の関係性について、脊髄運動神経の興奮性の指標であるF波を用いて検討を行いました。対象は健常者ですが、不快な感情を誘発するとされる画像を注視すると脊髄運動神経の興奮性が有意に増加したことから、不快な感情が痙縮など筋緊張亢進を惹起する可能性が示唆されました(Onigata & Bunno, Somatosensory & motorresearch, 2020 )。
 またメンタルトレーニングという言葉があるように、ポジティブな感情によりパフォーマンスが向上する場面があります。日常生活上、ボタンを留める等、手指の正確な力量調節能力が必要になります。そこで快感情が手指の力量調節能力に与える影響について検討しました。今回、対象者には「子犬」の画像を用いて快感情を誘発させました。さらに対照群として、特定の感情を誘発しないとされる「コップ」の画像を用いました。結果、子犬の画像により誘発された快感情が手指の力量調節能力を向上させることが分かりました(Bunno & Onigata, Frontiers in Psychology, 2022 )。快感情により手指の力量調節能力が向上したことについて、「かわいい」という感情が要因として考えられます。「かわいい」は現代の日本人がよく用いる言語であり、近年、研究が進められている感情の1つです。大変奥深い感情ですが、今回の研究ではきちんと考慮できていなため、今後深く検討していきたいと考えています。