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Blog 関西医療大学NOW!

 臨床検査学ユニットの竹田です。近年、次世代シーケンサーを用いて網羅的にDNAやRNAの核酸を調べることが可能となり、治療標的分子を発見され、新規薬剤開発がおこなわれています。例えばがん分野では、特定の遺伝子異常を伴うがん細胞に特異的に作用する分子標的薬が開発されています。分子標的薬は、副作用も少なくこれまで難治性疾患と考えられていた患者さんの予後やQOL改善に効果を発揮しています。また、臨床検査においては、一度に複数の遺伝子を調べることができるがんパネル検査が実装されています。これらの網羅的遺伝子解析技術の進歩により、様々な新規薬剤や治療法が開発されています。
 一方で、未だ有効な治療法のない疾患や既存の治療法で十分な効果が得られない疾患が存在し、これらはアンメット・メディカル・ニーズ(満たされない医療ニーズ)と呼ばれます。アンメット・メディカル・ニーズが存在する原因は、希少疾患あるいは疾患の発症や進展メカニズムが未解明なことが挙げられます。現在、網羅的遺伝子解析技術では説明が難しい複雑な領域へとシフトしていっています。その中で、我々はタンパクや核酸の修飾に注目しています。例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)では、健常人で核内に存在するTDP-43タンパクが核内から消失し、細胞質内に認められます。また、細胞質内のTDP-43タンパクは、凝集しており細胞質内封入体として検出され、タンパク修飾であるシトルリン化やリン酸化がおこっていることが報告されています1)2)。核酸修飾では、RNAのアデノシンのメチル化(m6A)が炎症を惹起することが報告されています3)。これらの測定には、主に質量分析法(MS)が用いられています。MSは、イオンの質量電荷比から超微量なイオンや分子1個当たりの質量を測る技術です。その技術進化は目覚ましく、検出感度や網羅性が向上しています。臨床検査にも応用され、微生物の同定、薬物濃度測定や新生児マススクリーニングなどに用いられています。
 アンメット・メディカル・ニーズ克服のためには、質量分析法や新しい解析方法を用いて疾患を解析し、病態解明を詳細に明らかにすることが重要です。そのことにより、治療標的を明確にし、臨床検査や創薬など臨床に実装することでアンメット・メディカル・ニーズを減らすことを目標に研究を進めています。

1)伊東 秀文.筋萎縮性側索硬化症の病態における最新の進歩
日本内科学会雑誌. 109:1891-1898, 2020.
2)D Arseni,et al. TDP-43 forms amyloid filaments with a distinct fold in type A FTLD-TDP. Nature. 620: 898–903, 2023.
3)A Ogawa ,et al. N6-methyladenosine (m6A) is an endogenous A3 adenosine receptor ligand. Mol Cell. 81(4):659-674. 2021.